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アガサ・クリスティ『ミス・マープル』シリーズ

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 アガサ・クリスティミス・マープルシリーズの読書記録をまとめました。
 読了順です。

 

ミス・マープルシリーズ

『ポケットにライ麦を』

原書名:A Pocket Full of Rye
訳:山本やよい

会社社長の毒殺事件を皮切りに名家で起きた三つの殺人事件。かつて仕込んだメイドを殺されたミス・マープルの正義の鉄槌が下る!
ポケットにライ麦を〔新訳版〕 | 種類,クリスティー文庫 | ハヤカワ・オンライン


 好奇心旺盛な老婦人探偵、ミス・マープルが登場する作品の1つです。(シリーズ6作目らしい)この「ポケットにライ麦を」で、マープルが登場するのは13章になってから(!)ですが、それまでに出てくるキャラが個性的。
 事件は、「マザー・グース」が題材になってます。そのせいか、犯人が狂人のように思えてしまうのですが…。
 それにしても、やっぱりマープルは人が良いんですね。二ール警部には聞き出せないことも聞き出してしまうんだから。こう、話してもいいような気になってしまうような人柄なんですね。
 犯人の正体も、途中で出てくる疑惑の人物の正体もすぐにはわからなかった。だから、犯人の正体には驚きました。まず、ないと思っていたのに。小さな犯罪、大きな犯罪、いろんな事件が複雑にからまった話でした。

★旧訳版。読んだのはこっち。(訳:宇野利泰)


 

 

『牧師館の殺人』

原書名:The Murder at the Vicarage
訳:羽田詩津子

嫌われ者の老退役大佐が殺された。しかも現場が村の牧師館の書斎だったから、ふだんは静かなセント・メアリ・ミード村は大騒ぎ。やがて若い画家が自首し、誰もが事件は解決と思った……だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人、ミス・マープルだけは別だった! ミス・マープルの長篇初登場作を最新訳で贈る。(解説:吉野仁/期間限定カバー:安西水丸
牧師館の殺人 | 種類,クリスティー文庫 | ハヤカワ・オンライン

 ミス・マープル初登場作品。ミス・マープルは近所にいたら厄介な人だとも思うけれど、憎めないかわいらしい老婦人です。
 今回は犯人当てることができました! ありがちといえばありがちな展開なのかもしれませんが…。何でも疑ってかかるものですね。セント・メアリー・ミード村の人々の中の色んな感情が事件に関わってきていて、すべての謎が解けたときにはなるほど! と妙に納得しました。そういうことだったのね、みたいな。でも、それにしたってこの村の交友関係って複雑な感じがします。今から70年以上も前の作品ですし、階級制度みたいなものがあるからなんでしょうけれど。

★旧訳版。読んだのはこっち。(訳:田村隆一



パディントン発4時50分』

原書名:4:50 from Paddington
訳:松下祥子

ロンドン発の列車の座席でふと目をさましたミセス・マギリカディは窓から見えた風景に、あっと驚いた。並んで走る別の列車の中で、まさに背中を見せた男が女を締め殺すところだったのだ……鉄道当局も警察も本気にしなかったが、ミス・マープルだけは別だった! シリーズ代表作、新訳で登場(解説 前島純子)
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/320041.html


 たまたま並んで走る列車の中での殺人! 意外性がある。楽しく読みましたが、この作品、意見がわかれるようですね。

 まだマープルシリーズも多くは読んでませんけど、大抵は事件に対して調査したりするのは別の人。今回それを担当するのは、有能で聡明なルーシー・アイルズバロウというスーパー家政婦さん。本編の中で事件に関わる男性陣のほとんどが彼女に好意を寄せました。事件の結果も気になったけれど、彼女の今後も気になったり(が、結局わからず仕舞いでした)。それにしても、ミス・マープルは顔が広いんですね。
 事件の幕はあっけなく下りた感じは否めません。犯人が自供したようなものだったからいいものの、それで犯人です! って決めてよかったのかな、とちょっと思いました。証拠が漠然としているというか。
 今回はあまり目立った活躍はなかったミス・マープルだけれど、やっぱりどの話でも根本的な部分は同じで、事件を捜査する方々にとっては良き理解者なんですね。魔女のようだ! とも言われてましたが。(その感想はなんとなく理解できちゃう)



『書斎の死体』

原書名:The Body in the Library
訳:山本やよい

町で名士と評判の大佐の家に死体が。しかも金髪の女性の――町のうわさになり、四面楚歌の大佐のために、ミス・マープルが調査に乗り出した。やがて死体の身元が判明するが、大佐と意外なつながりをみせる。著者初期の傑作、新訳で登場。(解説 黒山ひろ美)
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000011127/pc_detail/


 書斎に転がる死体、というのはミステリではよく見かける設定。そんな「ありふれた」材料でも、調味料・調理方法でがらりと変わります。後半でも、今まで信じてきたものが一変しましたし。そんな展開ありなの!? という具合に。よくよく考えれば、別に無理な話でもないんですよね。

 マープルの言うとおり、こういうミステリものは書かれていこと(人の証言)を鵜呑みにしすぎるのには注意しないと。
 今回はマープルも活躍。事情聴取するときのマープルはマープルらしいというか、ほんとに人をしっかり見ていますね。これが人生経験の違いということかあ。あんな人が住んでいる村では、たいそうなことはできませんね。今までちゃんとシリーズを最初から連続して見てないので、やっと人間の本質を見抜いて事件解決へ導く(?)というマープルの推理方法がわかったような気がしました。それにしてもマープルは女性らしい細かいところまで気がつきますね。



『魔術の殺人』

原書名:They Do It with Mirrors
訳:田村隆一

旧友の依頼で、マープルは変わり者の男と結婚したキャリイという女性の邸を訪れた。その家は非行少年たちを集めた少年院で、異様な雰囲気が漂っていた。キャリイの夫が妄想癖の少年に命を狙われる事件が起きたのも、そんななかでだった。しかも同時刻に別室で不可解な殺人事件が発生していた! 解説:加納朋子
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/320039.html


 ミス・マープル自ら事件(というより危険?)に首をつっこむ話。まあ首をつっこむのはいつものことですけど、なんか珍しい感じの事件への関わり方な気がしました。

 「魔術の殺人」というタイトルですが、トリックを考える際に参考にはなります。全然気づきませんでしたが。というか、またしても騙されてしまいました! マープルみたいに、ちゃんと観察をしなければいけませんね。どんなに良い人であっても、一度は疑ってかからないと。
 真相の説明のところは驚かされました。まさか、この人が!? って感じです。(ラスト辺りは急展開のような気も)推理をしていく過程でも、ちょっと都合良すぎじゃないかとも思うんですが(マープルにとって)、やっぱりマープルの人柄あってこそなんだろうなあ。親友思いの良いおばあさんです。好き。



『動く指』

原書名:The Moving Finger
訳:高橋豊

傷痍軍人のバートンが療養のために妹とその村に居を構えて間もなく、悪意と中傷に満ちた匿名の手紙が住民に無差別に届けられた。陰口、噂話、疑心暗鬼が村全体を覆い、やがて名士の夫人が服毒自殺を遂げた。不気味な匿名の手紙の背後に隠された事件の真相とは? ミス・マープルが若い二人の探偵指南役を務める(解説 久美沙織
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/320037.html


 久しぶりに読んだクリスティ作品。そんな久しぶりに読んだのはマープルのシリーズ。でも、マープルはほとんど出てこなかったです。両手で数えられるくらいしか出てこないんじゃないかって思うくらい短い間で、読んでる最中はなかなか出てこないなあなんて思いながら首を長くして(笑)登場を待ったものです。

 マープルが出てくる間の語り手、探偵役(っていうんだろうか)は一組の兄妹。ほとんどは兄の方ですが、彼が読者の代わりに事件現場に赴いたり、事件の真相に関わることを発見してくれますが、彼らが推理し見事事件を解決する! ということはありません。最終的に事件は自動に解決されてしまいます。マープルの出番も特にないまま。といっても、彼女はやはり見抜いていたようですが。

 なんとなく消化不良な気がしてしまう話ですが、でも実際はこの事件、かなり単純なものなんですよね。殺人が起こる前の陰口の叩かれた手紙が送られるという嫌がらせでカモフラージュされてて私はまた引っかかってしまってたんですが。(真相には途中で気付けましたが)あんなに動機がはっきりしている人なんて一人しかいないのに。よくよく考えればわかることなんですよね。つまりはマープルが読者の手伝いとして探偵役を務めるまでもないわけで。
 だからこその出番の少なさだったかもしれません。読者が語り手からの情報をもとにページを捲りながら推理していく、そんな味があったように思います。

 事件は複雑なようでかなり明快なものだったわけですが、実は事件よりも主人公のバートンの恋模様を気にしながらこの話を読んでました。クリスティ作品はロマンス要素とかも時々あって、それがまた良いんですよね。主人公が病院へ行く際、駅で想い人のミーガン(その時は自覚してなかったみたいですけど)に見送られるというシーンがあったんですが、見送られるはずだったのに衝動的に彼女の手を引いてそのまま汽車(だったかな)に乗せてしまうというシーンがあったんですよ。このシーンに思わずおお! と心の中で声を上げてしまいました。


『スリーピング・マーダー』

原書名:Sleeping Murder
訳:綾川梓

若妻グエンダはヴィクトリア朝風の家で新生活を始めた。だが、奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。ある日、彼女は観劇中、芝居の終幕近くの台詞を聞いて突如失神した。彼女は家の中で殺人が行なわれた記憶をふいに思い出したというが……ミス・マープルが回想の中の殺人に挑む(解説 恩田陸
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 回想の中の殺人、というタイプの話は始めて読むように思います。ミス・マープル最後の事件です。

 この殺人事件の解明を主に行うのは若い夫婦。若妻のグエンダがふとした拍子に思い出した記憶から、眠っていたはずの事件はまた動き出す。実際に殺人現場を見たからこそ記憶の中にも残っているのだろうけれど、記憶はおぼろげで当時のことを知る人は少なく、確かな証拠も少ない。曖昧なことばかりではっきりしなくて、咽に魚の小骨が引っ掛かって取れないような、そんな事件。記憶の中の、何もはっきりしない事件のせいなのか、妙な薄気味悪さを感じました。でも、それがこの話の味の一つなんだろうと思う。

 主な探偵役は若夫婦ですが、そんな二人に的確な助言をするのはやはりマープルの役目です。いつも自分の役目を知っているかのように、特別出張ることもせずにやるべきことをしている彼女ですが、今回は結構思いきったことをしていたように思う。眠っているものは眠ったままにしておいた方がいい、といったような言葉が作中にあったのですが、深いなあと思った。

 クリスティ作品はいつも最初はダラダラ読むのですが、大抵30~50頁くらい読むと先が気になって、一気に読んでしまいます。物語の中へと引き込む何かがあるんだろうなあと思う。