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宮部みゆき『幻色江戸ごよみ』

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盆市で大工が拾った迷子の男の子。迷子札を頼りに家を訪ねると、父親は火事ですでに亡く、そこにいた子は母と共に行方知れずだが、迷子の子とは違うという……(「まひごのしるべ」)。不器量で大女のお信が、評判の美男子に見そめられた。その理由とは、あら恐ろしや……(「器量のぞみ」)。下町の人情と怪異を四季折々にたどる12編。切なく、心暖まる、ミヤベ・ワールドの新境地!
https://www.shinchosha.co.jp/book/136919/


 江戸の下町を舞台にした、人々の哀切や人情に満ちた短編集。宮部みゆきさんの時代小説は読むのはこの作品が初めて。読みやすくてよいですね。

 どの話も甲乙つけがたく、印象に残る話ばかり。思わずゾッとするようなものもあれば、あまりのやるせなさになんともいえない気分になるものも。「紅の玉」や「紙吹雪」の読後のやるせなさといったら。「紅の玉」の最後の最後まで妻の心配する佐吉がまた…。自分の仕事に誇りを持ってて、それをやり切ったのに酷い目を見ることになって、読んでいてとても辛かった。
 切ないというと「庄助の夜着」「神無月」もそうでした。「庄助の夜着」では、最後何も言わずに庄助は店から去ってしまうが、その理由も彼の気持ちも本人だけしかわからない。お嬢さんが好きだったのかもしれないし、ほんとに幽霊に恋をしたのかもしれない。自分はやはり前者かなあ? と思ったのですが、読む側で考えられるのもまたいいなと思う。「神無月」は娘のために押し込みを働く男と、その犯人を追う岡っ引きの話で、それぞれの視点が交互に描かれている。十二話の中でも、とりわけ丁寧に書かれているようにも思う。絶妙なバランスのとれた哀切漂う話でした。

 一つ一つ感想を書くと長くなるのですが、この短編集の中で一番好きなのは第四話の「器量のぞみ」。面白くもあり、恐ろしくもあり、切なくもある不思議な話でした。幽霊の呪が解けたあとも今までと変わりなく続いたお信の生活にほっとしました。この話の中で一番幸せな話だと思う。

収録話
 第一話 鬼子母火
 第二話 紅の玉
 第三話 春花秋燈
 第四話 器量のぞみ
 第五話 庄助の夜着
 第六話 まひごのしるべ
 第七話 だるま猫
 第八話 小袖の手
 第九話 首吊り御本尊
 第十話 神無月
 第十一話 侘助の花
 第十二話 紙吹雪