文字を食べる

読書の備忘録ブログです。

吉田篤弘作品の読書記録

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 吉田篤弘作品の読書記録をまとめました。どれも短めです。吉田篤弘さんの本は話の雰囲気も本の装丁もどちらも好み。
 読了順です。装幀はクラフト・エヴィング商會

吉田篤弘の著作

モナ・リザの背中』

美術館に出かけた曇天先生。ダ・ヴィンチの『受胎告知』の前に立つや、画面右隅の暗がりへ引き込まれ……。さぁ、絵の中をさすらう摩訶不思議な冒険へ!
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/01/206350.html


 主な登場人物は大学で芸術について論ずる曇天先生と、その助手のアノウエ君。名前からしてなかなかの個性を放ってます。
 二人とも良い性格をしてます。そして、この二人の問答の軽快なこと。文章の中に散りばめられている言葉遊びも面白い! 理屈っぽいところがあるというか、話し手の曇天先生の主観が多いんですが勢いで読めました。
 曇天先生が絵の中に迷い込むことで話は進んでいくのですが、現実と絵の中の境界線の曖昧な感じがなんか雰囲気を出してるなあと思いました。言葉にするの難しい。隣り合わせの日常と非日常というか。
 絵の中の描写がなんとも不思議で独特な感じ。好き嫌いが分かれそうな書かれ方かもですが、私は好き。楽しかったです。読後感も良かった。シンプルな装丁も好みです。


『百鼠』

僕は天上で暮らす“朗読鼠”。地上の作家が三人称で小説を書く時に、第三の声となってサポートするのが仕事だ。ある日、担当する作家の船山鉄夫君が、突然、予定を変更して一人称小説を書き始めてしまい…。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480426444/


 百鼠の設定がおもしろかった。一人称の小説を書く作家を導くという存在。「彼ら」が気になります。もっと詳しく知りたい。長編で読んでみたい感じです。


『イッタイゼンタイ』

曇り空の下、男と女の「なおし合い」が始まる。破壊と再生の連鎖の果てにあるものは何か。人気作家が紡ぐ現代の寓話。
https://www.tokuma.jp/book/b495571.html


 現代のようでそうでもないような不思議な世界観。「イッタイ」と「ゼンタイ」の2部構成。
 最初は「なおし屋」と呼ばれる男たちの仕事が中心の短編集? みたいに思っていましたが、読んでいったらどうも違っていて…。徐々に物語の背景が見えてくる。「ゼンタイ」では男たちの背後にいた女たちが前に出て来て、彼女たちがやろうとしていることも明らかになる。最終的に「なおす」のをやめたかのように見えた女たちだったけど、オチに少し驚いた。後味悪いというかなんというか。10人の男のうちの9人が死ぬとか。しかも死因が…(ちょっと笑っちゃったけど)。台所をあずかる女性は重要ですね。最後の一人の未来もあまりなさそう…。

 探偵ポジションが男とも女ともつかない人たち、というのは、男と女の戦争という話の中で重要だったように思う。そういう人をあえて「オオモノ」は選んだんでしょうか。結局、黒幕のことはよくわからなかったけど、それはそれでよかったのかも。なんとも不思議な話でした。色んな作品で男女の愛がテーマになっているけど、この話もある種のそれですね。
 装丁が相変わらず綺麗でした。目次ページ見てるとわくわくしてきます。


★単行本




 

『なにごともなく、晴天。』

高架下商店街の人々と謎めいた女探偵、銭湯とコーヒーの湯気の向こうのささやかな秘密──。『つむじ風食堂の夜』の著者による愛おしく懐かしい物語。書き下ろしを含む完全版。
https://www.heibonsha.co.jp/book/b529252.html


 ちょっと不思議な商店街に住むB子こと美子と、商店街の人々のなんでもない日常を淡々と描いた話。特に何があるというわけではないけど、この作者の書く日常の話は好きです。女探偵とのやりとりが印象に残ってます。読後感もよかったです。
 あと、いつも思うんですけど、この方の本っていやにおいしそうな料理が登場する気がします。今回はベーコン好きの喫茶店店主が作る賄い料理、ベーコン醤油ライスがおいしそうでした。正直言うとこの料理が一番印象深いです。食べたい。


★読んだのはこっちだったので、完全版も読みたいなあ。




 

つむじ風食堂の夜

それは、笑いのこぼれる夜。――食堂は、十字路の角にぽつんとひとつ灯をともしていた。クラフト・エヴィング商會の物語作家による書き下ろし小説。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480803696/


 静かな雰囲気のお話。やっぱりこの作者のこういう話好きだなあ。舞台、主人公、その周辺と好きな設定です! 夜、果物屋のオレンジに電球の光があたる、そんな描写がなんだか不思議な感じ。なんでもないことがちょっと不思議な雰囲気に感じるというか。「ここ」がどこにあたるかについて、読後少し考えちゃいました。

内容
 食堂/エスプレーソ/月舟アパートメント/星と唐辛子/手品/帽子と来客/奇跡/つむじ風//月舟町余話


 

 

『つむじ風食堂と僕』

ベストセラー小説『つむじ風食堂の夜』番外篇。食堂のテーブルで12歳の少年リツ君に町の大人たちが「仕事」の話をする。リツ君は何を思い、考えるか……?
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480689023/


 『それからはスープのことばかり考えて暮らした』に出て来るサンドイッチ屋さんの息子・リツ君視点の月舟町でのいろいろ。前述の作品とつむじ風食堂の夜に出て来るキャラたちと登場キャラが被ってるので両方知ってるとにやりとするかもしれません。三部作だそうで、三部目が発売を控えてるそうですが、その最後の作品を読んだら、またこの話の見方が変わってくるのでしょうか。

 この本は、主につむじ風食堂に一人で出かけるリツ君が、食堂の人々に仕事に関して尋ねる話。『つむじ風食堂の夜』に出てきたあの登場人物たちが、自分たちの職業について、真面目にリツ君に語ります。実に色々な職業観。十人十色。仕事をすることについて漠然としている人が読むのに良さそうな感じです。そういう子ども向け、というのもあるんでしょうけど。淡々とした日常描写がなんだか心地よかったです。

 後書きでちくまプリマーを再認識しましたが、色々深いですね。テーマは「子どものために伝えたいこと」、原稿用紙100枚分という規定があったのだとか。確かに子どもにわかりやすいと思ってたけど。読みやすいし。でも、子ども向けながら装丁はシンプルで誰でも手に取りやすい感じがいいですよね。と思ったら、クラフト・エヴィング商會さんが担当されてたんですね。どうりで好みのはずです。

 

 

 

ガリヴァーの帽子』

名手・吉田篤弘が贈る、おかしく哀しく奇妙で美しい、色とりどりのおもちゃ箱のような短編集。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167914592


 一風変わった短編集。どれも独特な雰囲気を持っていて(いつもの静かな語り口がやっぱり好みです)、どういう短編集なんだろう? と思いながら読んでたんですが、あとがきの一編によると「美しく年老いた物語」がテーマなのだとか。納得しました。
 個人的に「イヤリング」「ものすごく手のふるえるギャルソンの話」「ゴセンシ」が好きです。どれもちょっといいお話、って感じの終わり方。イヤリングはいい感じのすれ違い感が好みです。ギャルソンの話は、ギャルソンが手が震えるなんて致命的なのではと思いつつ、彼女の励ましに目から鱗というか心が温かくなりました。ゴセンシも疎遠になった友人との思わぬところからの繋がりというか、なんかいいなあと思う。「かくかく、しかじか」のシャンパンの気泡視点の話も斬新でおもしろかったです。
 
内容
ガリヴァーの帽子/イヤリング/ものすごく手のふるえるギャルソンの話/かくかく、しかじか―あるいは、彗星を見るということ/ゴセンシ/御両人、鰻川下り/名前のないトースターの話のつづき/孔雀パイ
ロイス・レーン相談所の話のつづき―あとがきにかえて


 

 

『うかんむりのこども』

「自我自讃」に「自画持参」、「短刀直入」、一番大切な漢字を決める……文字モジした言葉エッセイ集。
https://www.shinchosha.co.jp/book/449103/


 文字、特に「漢字」に関する小話集。一つ一つが短いのでさくさくと読み進められました。
 漢字に対する着眼点がよくて、おもしろかった。烏に一を足して鳥になるとか、心に関する漢字のこととか。(仮)の便利さとか、漢字の感じとか。誤字のところでは自分の勘違いも恥ずかしながら判明したり。私、「字」の部首はうかんむりだと思ってました…。

内容
始まり始まり/わたくし/三人寄れば/門前にて/文字を買う/こころ/読み間違い/偉い/午後四時/ひざまずく人/(仮)/誤字/心さみしいときは/感じ/烏/紅一点/月/ロック/八犬伝/目のつけどころ/鏡の国/てきとう/重ねる/うかんむり


 

 

『台所のラジオ』

台所のラジオから聴こえてくる声に耳を傾ける、十二人の物語。滋味深くやさしい温もりを灯す短篇集。
http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=5638


 台所のラジオがキーアイテムの短編連作集。どこかで世界がつながっていて、話もそのどこかでつながっている。浮世離れしたような不思議な世界観が好きだと思った。話の中では「シュロと休息」が特に好き。おもしろかった。ミステリーのベタなネタが…。
 孤独の中でも誰かとつながっているような安心感。読後はラジオでも聞いて、まったりコーヒーでも飲みたい気持ちになりました。


 

 

『十字路のあるところ』

写真:坂本真典

夢かうつつか。物語の痕跡を探して、物語の中の十字路を訪ねて歩く――作家が「水」をめぐる物語を模索する「雨を聴いた家」、「影の絵」を描くオビタダが主人公の「水晶万年筆」など、6つの短編を、文章とモノクロ写真で構成。
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=7100


 文章はなんだか幻想的で、実際にはなさそうな感じがするんですが、話が終わったあとの写真を見ているとその話が本当にあったのではないかと思えるところが不思議でした。写真が、その物語に登場する場所に合ってるので、あの場面はあそこだったのかな? と思っちゃうんですよね。おもしろい構成の本です。


内容
 雨を聴いた家
 水晶萬年筆
 ティファニーまで
 黒砂糖
 アシャとピストル
 ルパンの片眼鏡