文字を食べる

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神永学『コンダクター』

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装画:鈴木康士

毎夜の悪夢、首なしの白骨、壊れ始める友情、怪事件を狂信的に追う刑事。
音楽を奏でる若者たちの日常が、一見つながりのない複数の出来事が絡み合い崩壊の道をたどる……!?
https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/conductor/

 同じ作者の作品に「心霊探偵八雲」シリーズがあります。こちらとはまた全体的に一味違った内容になってたように思います。心理学の方向よりのミステリです。
 事件に関わる主な登場人物たちがオーケストラのメンバーということで、タイトルになっている「コンダクター」もオーケストラの指揮者担当を指してるんだろうな、と特に深く考えることもなく読んでましたが、タイトルのコンダクターは作品の中でも重要なものを指していたのですね。とても的確であり、ある意味盛大なネタバレでもある。

 読んでいる最中、登場人物たちの行動に僅かな齟齬のようなものを感じ、あれ? と首を捻ったものですが、犯人や事件のネタばらしで納得しました。自分の手を汚さない、まさに彼はコンダクターである。何故彼がこの事件を起こそうとしたのかは知れないけど、最後の部分を見る感じ、有耶無耶になった事件で裁きを受けずにのうのうと暮らす犯人への鉄槌って感じですかね。
 独りよがりでおこがましい感は否めないですが、彼の遣り方だとその事件の当事者たちの自業自得という気もします。皆が自分の欲や保身で他が見えなくなったら、こんな事件が起きてしまうんだろうか。とはいえ、やっぱり彼がこういう事をする理由は謎ですね。色んな顔を持っていた彼ですが、奈緒美に語った過去の話は本当の話だったのかもしれない。
 設定や話はおもしろかったですが、上に書いたように語られていないことも多く、すっきりしない部分もあります。でも、ラストで奈緒美が指輪を受け取る場面はなんだか少し切なくて、妙にしんみりした気分になりました。


○コミック版もある