文字を食べる

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長野まゆみ『左近の桜』

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武蔵野にたたずむ料理屋「左近」。じつは、男同士が忍び逢う宿屋である。宿の長男で十六歳の桜蔵にはその気もないが、あやかしの者たちが現れては、交わりを求めてくる。そのたびに逃れようとする桜蔵だが。
https://www.kadokawa.co.jp/product/201103000124/


 タイトルに惹かれて読んでみました。以前何冊か読んだことはありますが、長野まゆみさんの本を読むのはかなり久しぶりな気がします。以前読んだものは、旧仮名がよく使われてたように思いますが、この本には使われてなくて、てっきりそういう作風なのだと思ってたので少し驚いた。なんだか新鮮に感じた。

 この方の書く文章は静かな湖にいるような感じを受けるのですが、今回もまた静かな文の中に季節感や情感が溢れていて良いなあと思いました。しかし、今回はなんだか直接的な表現が目立ってみえたような気がします。何の前情報もなしに読んで、内容が思いっきり同性愛だったのでびっくりしただけな気もしますが。以前読んだ本でも少年愛がぼやかされて書かれたものもあったように思うけれど、この話では結構あからさまというか、いつにもなく艶のある場面があったような。主人公の桜蔵がノーマルを謳っている硬い考えの子だから、いっそう際立つんだろうか。周囲から散々「女」と呼ばれても、やっぱり思うところがあるみたいだし。

 全然知らなかったんですが、この作品は新シリーズの第一作目だそうですね。登場する男たちが言う「男」だ「女」だという基準もそうですけど、桜蔵があやかしの者たちを惹きつける理由とか出生とか、他にもいるミステリアスな登場人物たちとか、まだまだ気になることもあり、今後語られることもあると思うと楽しみです。桜蔵の弟、千菊の「ゆで玉子好き」という設定が何気に好きです。あと、今更ですが、この話の登場人物たちの名前に使われる字と響きもなんか好きだ。

 

○単行本