文字を食べる

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高田郁『想い雲 みをつくし料理帖』

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装画:卯月みゆき

土用の入りが近づき、澪は暑気払いに出す料理の献立に頭を悩ませていた。そんなある日、戯作者・清石衛門が版元の坂村堂を連れ立って「つる家」を訪れる。澪の料理に感心した食道楽の坂村堂は、自らが雇い入れている上方料理人に是非この味を覚えさせたいと請う。
http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=3559


 一気に読みました。面白かった。
 澪を取り巻く人々の温かさがいい。口が悪く皮肉屋な清右衛門もすっかり「つる家」の常連ですね。ついでに坂村堂さんも。2巻に出てた美緒も準レギュラーっぽい? 人の輪も広がって、また楽しくなってきました。

 しかし、また今回も澪たちには苦難がたくさん降りかかりましたね。行方不明の芳の息子のこととか。富三はもうなんというか…どうしようもない。芳さんの気持ちを考えるとほんとやりきれないです。無事だといいけど。
 毎回、澪と野江の話がある感じなのでしょうか。今回もあった澪と野江の話にはやはりうるっとしてしまった。束の間ではあったけど会うことができて良かった。野江ちゃんの周りには味方がたくさんいてくれているようで、そこにもほっとしました。

 でも、そんな切なくも温かな話のあとにはまた苦難。つる家もなかなか安心できないというかなんというか。苦難の頻度が高いというか、ちょっとしつこすぎやしないかと思わないでもない。しんどい。「雲外蒼天」かあ…。
 ついにお酒を出すことにしたつる家。でも、ただ出すわけではなく、ちゃんとつる家らしい決まりがあるのがいい。又次さんもつる家の一員みたいなもんですね。頼もしい。

 最後の話はふきちゃんとその弟の健坊の話。こっちの二人もなかなかうまくいかない。ふきちゃんと健坊、二人一緒に暮らせる日が来ればいいとは思うんですけど…。りうさんや芳さんの言葉はずしんときました。「身の丈を超えた情をかけるのは、健坊にとっても不幸、つる家にとっても不幸」「尻拭いを他の者がしたのでは、これから先も嫌なことから逃げ出す一生になってしまう」。一見厳しいかもしれないけど、これもまた優しさなのかな。
 そういえば、小松原さんの謎の素性がちょっとわかってきましたね。あと源斉先生の澪や芳、つる家に対する親切っぷりは何かのフラグを感じさせます。まあ先生は元々そういう人ではあるんだろうけど。今回も変わらず、おいしそうな料理でした。次回も楽しみ。

 

収録話
 豊年星――「う」尽くし
 想い雲――ふっくら鱧の葛叩き
 花一輪――ふわり菊花雪
 初雁――こんがり焼き柿