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高里椎奈「ドルチェ・ヴィスタ」シリーズ

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 高里椎奈著「ドルチェ・ヴィスタ」シリーズの読書記録まとめ。読んだのは2006年、かなり古い記録です。

「ドルチェ・ヴィスタ」シリーズ

『それでも君が』

生まれ落ちたばかりのキンカンと、彼を見付けた少女リラ。料理の上手なヴィオラと、人懐こいピアニカに、双子の兄弟シンとバル。家(ホーム)に住む6人を含めても、世界中で31人の“小さくて大きな密室”。1つの悲劇が、このドルチェ・ヴィスタ(甘い景色)に潜む驚天動地の真実を暴き、世界の輪郭を変える!20周年特別書き下ろし作品!!
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000158453


 出だしから、なんだか不思議な雰囲気。最初はダラダラと読んでいたのですが、ある一定の部分まで読んだあとは一気に読みました。
 その世界は本当に「不思議」としかいえない世界で、生物が生まれる概念も普通とは違う。けれど、その世界では普通なんだよなあ。水が危険だったり、雨が危険だったり。
 密室(ここでは話の舞台である「世界」がそれにあたるわけですが)で起こった事件の物語。が、こんなに広い密室の話は読んだことないです。面白い発想だなあ。

 読後感が良かったです。ラストの急な場面変換にはっとさせられました。それがかえって、キンカンに対する家族たちの温かさを切なくさせたようにも思います。キンカンは別の世界の「家族」たちに会ったことによって何かが変わったんでしょうね。理解してもらいたいから、ちゃんと伝えなければならないのだということを知ったりだとか。
 登場人物の名前が楽器に由来しているところが可愛らしくて好きです。シンとバルという名前には笑っちゃいましたが、彼らがお気に入りです。ほんとにその名の通りの性格ですし。


『お伽話のように』

希望は、失望の後ではなく、絶望の先は仄かに見えるもの。約束の地(ユートピア)は、求めても届かず、立ち止まっても訪れず、ただ全力を振り絞って歩き続けるうちに、ふと刹那、立ち現れ、通り過ぎなければならないオアシスのようなもの。
https://bookclub.kodansha.co.jp/title?code=1000016300


 前作の『それでも君が』の続きというわけではなく(ある意味では続きなんだけど)別の話。最初はキャラの設定とか場面の設定とかについていけなかったのですが、しばらく読んでいるうちにだんだん話の中にはいり込んでいけました。なので、割とすぐに読めました。

 この『お伽話のように』の中には3つの短編が収録されています。それぞれ主人公は違ってて、話も独立しているのですが、どこかで登場人物の間に接点があったりします。前作に登場したキンカンこと金田寛治くんですが、まさかまた登場するとは思いませんでした。ジャファを見て、彼女を思い出させる年頃の少女と何か懐かしむようなことを思ってましたけど、この彼女ってリラのことですかね。この作品、登場人物は多いですがどのキャラも全然違う性格しててなかなか良かった。

 話としては、やっぱりなんか不思議な感じ。現代ファンタジーか。一番場面とか状況がわかりにくかったのは1話目の「春の月夜に消える影」。色々と物事が唐突だったような気がしたけど、薙季や芦柑や風馬との黒のやり取りは可愛かったです。しかし、何者。3話目の「非常識的リアリズム」もかなり不思議な話でした。金寛とジャファのでこぼこコンビがいい味出してると思いました。結構ツーカーですよね。


『左手をつないで』

31人だけが生きる世界(ユートピア)の謎に迫る第1弾『それでも君が』。金寛(きんかん)、芦柑(ろかん)、竹琉(たける)、ジャファ……彼らに起きた世にも残酷で温かな物語を描く第2弾『お伽話のように』。そして完結編『左手をつないで』。シリーズ全10話の短編が最後につながり、謎につつまれた“ドルチェ・ヴィスタ”シリーズ、その衝撃の全貌が明らかに。
https://bookclub.kodansha.co.jp/title?code=1000020251


 シリーズラスト。5つの短編が収録されてます。が、続き物ってわけでもないので、ばらばらに読むこともできそう。最初から読むのが一番ですが。
 前作とはやはりどれも違ったシチュエーションの話ですけど、キャラは前作に出てきたキャラ、その縁のキャラしか出てきません。金寛はメインみたいですし。修理屋って響きもなんかいいですね。

 『左手をつないで』で、ドルチェ・ヴィスタの最大の謎が明らかに。といっても、はっきりとは書かれてはいなかった気がしますが、それでもラスト部分ではそういうことだったのね、とびっくりしたというか、なんとなく薄ら寒くなったというか…。どの話も現実離れしているけど、どこか温かい。金寛を取り巻く人たちとか。(三瓶はいいヤツですよ、ほんと)心療内科医なのに、修理屋の仲介をやっている理由というのも好き。「傷付いた人間、特に人に傷付けられた人間は、自分自身が癒されるよりも、誰かの力になれたと実感出来た時に、本当に救われるんじゃないかと思う」という部分。なるほどなあ、と思いました。

 謎というか、なんとなくはっきりしない部分・わからない部分はあるんですが(読み込みが足りないのか)、謎は謎なままでもいいかもしれません。…最後にまた謎が増えましたが。いきなり難しい設定がきてしまったというか。ラストでこのドルチェ・ヴィスタの最初の場面に戻ったわけなんですが、結局のところ、ジャファがリラでだからリラはキンカンにこだわってたということですかね。しかし、ラストの双子の片割れのシンの名前には懐かしさが。シリーズ1作目を読んだのは結構最近なのになあ。