小川洋子作品の読書記録をまとめました。全体的に短めです。小川作品は文章も装丁もどれも好きです。タイトル50音順。
小川洋子作品
『いつも彼らはどこかに』
装丁の作品:YOSHiNOBU
動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。
https://www.shinchosha.co.jp/book/121527/
どこか不思議な舞台設定がとても魅力的でした。登場人物や場所のはっきりした固有名詞がでてこないのも不思議な感じ、をつくるのに関係してるんだろうか。
どの話も優しい話でした。でも読後感は甘いばかりではなく、ほろ苦かったりも。静かな世界での出来事といった感じですごく好きです。文章もやっぱりきれいで読みやすい。
どの話にも印象的なシーンがあるのですが、特に「目隠しされた小鷺」に出て来る、同じ絵だけを見ている老人が印象に残ってます。儀式めいていて神秘的な感じがして。あとは「帯同馬」のおばさんも。主人公にとっての帯同馬はおばさん、ってことだろうか、なんて思って読んだりしてました。
収録内容
帯同馬
ビーバーの小枝
ハモニカ兎
目隠しされた小鷺
愛犬ベネディクト
チーター準備中
断食蝸牛
竜の子幼稚園
★単行本
『ことり』
装丁の作品:勝本みつる
人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりをよく理解し、こよなく愛する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。小鳥たちの声だけに耳を澄ます二人は、世の片隅でつつしみ深く一生を生きた。やさしく切ない、著者の会心作。解説・小野正嗣。
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17676
幼稚園の鳥小屋の世話をしていたことからついた呼び名「小鳥の小父さん」。そんな小鳥の小父さんの一生を淡々と綴った話。
お兄さんの話すポーポー語、鈴虫の老人とのやりとり、メジロの鳴き合わせ会など、現代小説でありながらどこか幻想的な要素があり、なんだか不思議な感じでした。文章の徹底した三人称(「小父さんは~」みたいな)がまたそう思わせるのでしょうか。
そこかしこに物悲しさをにじませつつもその静謐な世界が心地いいです。こちらからすると小鳥の小父さんの生活はほんと悲しいというか寂しいもののように思うんですが、メジロとの生活は生き生きとしているように見えた。そんな小父さんの生涯は小鳥に看取られて幕を下ろす。小鳥の小父さんは幸せだっただろうか。
情景が鮮明に浮かぶ美しい結末でした。これが冒頭に繋がるんですね。
『琥珀のまたたき』
装丁の写真:加藤新作
とある出来事がきっかけで閉ざされた家の中で暮らすことになるオパール、琥珀、瑪瑙の3きょうだいの話。静かな狂気というか、すごく不自然なことなのに、描写が綺麗なせいか、閉じられた世界での暮らしが美しいものに感じられる。
この綺麗な世界がいつか壊れるであろうことは読んでいてなんとなくわかっていたので、どの瞬間に壊れてしまうのか少しどきどきしながら読みました。案外、あっけなく終わっちゃうものですね。静かで美しくてどこか哀しい話でした。
book-sp.kodansha.co.jp
『最果てアーケード』
装画:酒井駒子
使用済みの絵葉書、義眼、徽章、発条、玩具の楽器、人形専用の帽子、ドアノブ、化石……。「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかりが集まっている、世界で一番小さなアーケード。それを必要としているのが、たとえたった一人だとしても、その一人がたどり着くまで辛抱強く待ち続ける――。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212073
酒井駒子さんの表紙絵が素敵。読後改めて眺め、ぴったりの絵だと再確認しました。
文章から感じられる静謐な空気がやっぱり好きです。そして、どの話にも通してひっそりと漂う死の匂い。せつなさが込みあがってくることも。なんともいえない読後感でした。
どの話も好きですが、個人的に「遺髪レース」が好きです。髪の毛でつくるレースというものを初めて聞いたので(どんなものなのか見てみたい)、それが印象に残ってるのかもしれません。物語の急展開というか、主人公の周りの死についての話が出てきたのがこれだったからでしょうか。
マイナーというか不思議なお店ばっかりですが、こんなアーケードちょっと行ってみたいですね。ファンタジーというわけじゃないのに、どこか幻想的な雰囲気もあって素敵でした。
内容
衣装係さん
百科事典少女
兎夫人
輪っか屋
紙店シスター
ノブさん
勲章店の未亡人
遺髪レース
人さらいの時計
フォークダンス発表会
★漫画版
『注文の多い注文書』
装丁:クラフト・エヴィング商會
「ないものを探してください」。小川洋子の描く人物たちの依頼に、クラフト・エヴィング商會が応える。ふたつの才能が真剣勝負で挑む、新しい小説のかたち。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480804501/
小川洋子さんとクラフト・エヴィング商會による共著。というか競作。どちらのファンでもあるので、個人的にとても豪華に感じます。装丁から話まで、どれも好みです。不思議な空気とかも。
小川洋子さんによる「注文書」、クラフト・エヴィング商會による「納品書」、そして小川洋子さんによる「受領書」という構成でできた短編集。(「冥途の落丁」のみ受領書なし)ここでのクラフト・エヴィング商會は『ないもの、あります。』のあのお店でした。
違う人が書いているのに違和感がなく、雰囲気が壊れていないのが月並みの言葉だけどすごいと思う。製作期間が長い本のようですが、それだけに素敵な仕上がりなんだと思う。どんな無茶ぶりにも答えちゃうお店、すごい!
どの話も印象深いのですが、ラストの「冥途の落丁」の受領書の空白の使い方にドキリとしました。この話のもとになっている小説はどれも知らないものでしたが、楽しめました。元の小説も気になります。
内容
case1 人体欠視症治療薬 (川端康成『たんぽぽ』)
case2 バナナフィッシュの耳石 (J.D.サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』)
case3 貧乏な叔母さん (村上春樹『貧乏な叔母さんの話』)
case4 肺に咲く睡蓮 (ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』
case5 冥途の落丁 (内田百閒『冥途』)
○「バナナフィッシュにうってつけの日」収録
バナナフィッシュってなんだろうと思ったけど、作中に登場する架空の魚らしい。なんか甘そう。
バナナフィッシュって聞くと、↓しかでてこない。
『人質の朗読会』
装丁の作品:土屋仁応
慎み深い拍手で始まる朗読会。耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして……。しみじみと深く胸を打つ、祈りにも似た小説世界。〈解説〉佐藤隆太
https://www.chuko.co.jp/bunko/2014/02/205912.html
独特な世界。とても静かで厳か。淡々と物語は語られていく。
語られる物語は不思議で、温かくもあり悲しくもある。どの物語にも悲しさのようなものを感じるのは、最初に語られる語り手たちの結末があったからでしょうか。
登場人物の名前は一切出てきませんでした。語り手も性別と年齢、職業がわかる程度。話のあとでそれがわかるんですが、結構あれ?って思うことが多かったような気がします。思い出話のようなものが多かったからかな。読後も物語の静かな余韻に浸れました。この独特の雰囲気がすごく好みです。
★文庫版