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万城目学『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』

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元気な小1、かのこちゃんの活躍。気高いアカトラの猫、マドレーヌ夫人の冒険。誰もが通り過ぎた日々が輝きとともに蘇り、やがて静かな余韻が心に染みわたる。奇想天外×静かな感動=万城目ワールドの進化!
(引用元 https://www.kadokawa.co.jp/product/321205000005

 かのこちゃんとマドレーヌ夫人、この両者の視点で物語は進む。猫の集会の場面などは、実際猫の視点から見るとこんな風に見えるんだろうなあ、って感じのことをおしゃべりしてて楽しかった。それに、かのこちゃんも等身大の小学1年生って感じがして可愛かった。すずちゃんとの「鼻てふてふ」や「大人のお茶会」などのやり取りなんか特に。もっともらしく語尾に「ござる」を付ける二人の会話は可笑しいやら可愛いやら。

 あと、物語のキーにもなるマドレーヌ夫人の変化。すごく不思議な気持ちになった。かのこちゃんの人間の世界とマドレーヌ夫人の猫の世界が交わるとでもいうんだろうか。マドレーヌとしてではないけど、かのこちゃんと会話したときの彼女はどんな気持ちだっただろう。といっても、夫である玄三郎のことを伝えることでいっぱいいっぱいだったんだろうけども。ちなみに、マドレーヌ夫人の夫はかのこちゃんの家の飼い犬。言葉としてはっきりと書かれてないけど、近所の犬たちからは一目置かれてるんだろうなと思う。種別は違えど彼らは良い夫婦だと読んでいて強く思った。

 くすっと笑ってしまうような場面もあり、うるっとくるような場面もある。おかしくも切ないというなんとも絶妙なバランスのとれた話のように思います。マドレーヌ夫人による、かのこちゃんとすずちゃんのお祭りでの再会は、すごく優しかった。すずちゃんのお父さんになったマドレーヌと、かのこちゃんのお父さんの会話は気になります。最初の方でマドレーヌはかのこちゃんがあまり好きではなさそうな印象を受けてたんですが、「むしろ好きなくらい」という彼女の発言を見て、驚いたと同時にとても嬉しかった。確かにかのこちゃんは賢い。
 玄三郎がいなくなり、かのこちゃんから自由への選択肢をもらったマドレーヌ夫人。首輪を外した彼女はやっぱりあの家からいなくなっちゃったんだろうか。それともまた戻ってくるんだろうか。
 なんだか優しい話でした。かのこちゃんの周りの大人もそう。しかし、かとりさんのお財布の中身は気に掛かります。


★ちくまプリマー新書版も好き。(装丁:クラフト・エヴィング商會)

★角川つばさ文庫(イラスト:たまこ)